ポマトという名前を聞いたことがありますか?ジャガイモとトマトの細胞を融合させて作られた雑種植物で、1978年に西ドイツ(当時)で開発されました。地上にトマト、地下にジャガイモができる夢のある植物として、一時期注目を集めました。
この記事では、ポマトの起源と開発目的、細胞融合の仕組み、収穫上の課題や現状を解説します。接ぎ木との違いも取り上げ、二つの作物の性質を組み合わせる難しさを紹介します。なお、記事内の画像はトマトとジャガイモを写したものです。

ポマトの不思議な世界

ポマトとは何か
ポマトは、ジャガイモとトマトの細胞を融合させて作られた雑種植物です。1978年に西ドイツ(当時)のマックス・プランク研究所で、G.F.メルヒャーズ博士によって開発されました。
名前はポテトとトマトを組み合わせたものです。一時期は未来の植物として注目を集めましたが、開発当初から二つの作物を大量に収穫することだけを目指したわけではありません。
通常は交配できないジャガイモとトマトを、細胞融合で組み合わせられるかを探る研究としての意味がありました。 トマトにジャガイモの耐寒性を導入することなども、開発の狙いとして挙げられています。ただし、作製に成功したことと、狙った性質を備えた実用的な作物ができたことは別です。
細胞融合とは
細胞融合は、細胞同士を一つにする現象です。植物の品種改良では、異なる植物の細胞を人工的に融合させ、両方の性質を持つ植物を作るために利用されます。
植物の細胞には、細胞膜の外側に細胞壁という丈夫な構造があります。融合させるには、まずこの壁を取り除き、プロトプラストと呼ばれる状態にする必要があります。
ポマトの作製は、主に次の流れで進められました。
- トマトの葉肉細胞と、ジャガイモの液体培養したカルス(細胞の塊)を用意します
- 細胞壁を酵素で取り除き、プロトプラストを作ります
- ポリエチレングリコール(PEG)を使って、両方のプロトプラストを融合させます
- 融合した細胞を培養し、植物体へ育てます
通常の交配は、生殖細胞を通じて両親の遺伝情報を受け継ぐ方法です。一方、細胞融合では、体を構成する細胞を直接組み合わせるため、交配が難しい組み合わせでも雑種を得られる可能性があります。
なお、融合後にすべての染色体が安定して残るとは限りません。染色体は遺伝情報を含む構造で、培養や生育の過程で一部が失われる場合もあります。
ポマトのメリットとデメリット
ポマトの魅力は、二つの植物の性質を組み合わせる可能性を示した点です。一方、地上と地下の両方で十分な収穫を得るには課題がありました。
期待された点と、実際の課題は次のように分けられます。
| 観点 | 期待された点 | 課題・注意点 |
|---|---|---|
| 性質の組み合わせ | 耐寒性など、片方の性質を取り入れる可能性 | 狙った性質だけが現れるとは限らない |
| 地上部の収穫 | トマトの実を収穫する可能性 | 実用になる実の収穫は確認されていない |
| 地下部の収穫 | ジャガイモのいもを収穫する可能性 | 実用になるいもの収穫は確認されていない |
一般に、光合成で作られた養分は、果実や塊茎などの成長に使われます。ただし、この仕組みだけで、細胞融合によるポマトの収量不足を説明することはできません。
ちなみに、ジャガイモの食用部分は根ではなく、地下の茎が太くなった塊茎です。
なぜポマトは広まらないのか

ポマトが実用的な作物として広まらなかった背景には、栽培しても十分な収量を得にくいという課題があります。珍しい植物を作れても、安定した収穫につながらなければ、農作物として普及させるのは難しくなります。
また、細胞融合全般には、両親の好ましくない性質まで受け継ぐ場合や、種子ができにくくなる場合があります。作製できることに加え、育てやすさや増やしやすさも求められるわけです。
ここで区別したいのが、ジャガイモにトマトを接ぎ木した植物です。地上にトマト、地下にジャガイモができる見た目でも、細胞融合で作ったポマトとは成り立ちが異なります。
| 比較項目 | 細胞融合 | 接ぎ木 |
|---|---|---|
| 組み合わせ方 | 二つの植物の細胞を融合させる | 土台となる植物に別の植物の茎をつなぐ |
| できる植物 | 両方の遺伝情報を持つ雑種植物 | つないだ部分がそれぞれの性質を持つ植物 |
| ポマトとの関係 | ここで説明するポマトの作製方法 | 細胞融合による雑種とは異なるもの |
接ぎ木にはトマトとジャガイモを収穫できた例もありますが、その成果を細胞融合によるポマトの成果と混同しないよう注意が必要です。
ポマトの現状と今後の展望
ポマトの現状について、「ほとんど絶滅している」とは断定できません。実用的な作物として広く普及したとは確認できない一方、現在の栽培・保存・流通状況も明確ではないためです。
将来の可能性を考えるうえでは、ポマト自体の普及と、細胞融合技術の応用を分けて捉えるとわかりやすくなります。ポマトに収穫上の課題があっても、細胞融合という方法全体が不要になったわけではありません。
例えば、野生ジャガイモが持つ害虫に関わる性質を取り入れるための細胞融合や、オレンジとカラタチを組み合わせた「オレタチ」の作出例があります。ただし、雑種の作出に成功しても、すぐに商品化できるとは限りません。
細胞融合は、病気や寒さへの耐性などを持つ植物を育てるための手段として、応用の可能性を持つ技術です。
ポマトを知ることの意義
ポマトを知ることは、植物の品種改良がどのように進んできたのかを理解する入り口になります。新しい組み合わせを作る技術だけでなく、植物本来の仕組みや生育条件にも目を向けられるからです。
例えば、細胞融合を支えたのが、建部到らによるプロトプラストの大量単離の研究でした。1967年に大量に取り出すことに成功し、1971年にはプロトプラストから植物体を再生することにも成功しています。
この研究は、もともと植物ウイルスの感染や増殖を細胞単位で調べるために進められたものでした。別の目的で生まれた基礎研究が、植物の品種改良につながった例です。
ポマトの歩みからは、研究で新しい植物を作ることと、暮らしの中で役立つ作物へ育てることの間に、さまざまな段階があるとわかります。技術への期待と実際の成果を分けて見ることは、農業や食糧に関する情報を読む際にも役立ちます。
この記事のまとめ
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